これぞ痛快無比
- 「奴が殺人者だ」(1958年、東宝)
- 監督丸林久信/原作樫原一郎/脚本橋本忍/佐藤允/土屋嘉男/天本英世/山茶花究/淡路恵子/横山道代/中田康子/東郷晴子/中丸忠雄/堺左千夫/峯京子/笠間雪雄
- 「暗黒街の弾痕」(1961年、東宝)
- 監督岡本喜八/脚本関沢新一/加山雄三/佐藤允/三橋達也/ミッキー・カーチス/中谷一郎/中丸忠雄/河津清三郎/草川直也/浜美枝/横山道代/水野久美/島崎雪子/三島耕/堺左千夫/天本英世/塩沢とき/平田昭彦/沢村いき雄/伊藤久哉
「奴が殺人者だ」は脚本橋本忍に、「暗黒街の弾痕」は監督岡本喜八に惹かれ、観にゆく。
「奴は殺人者だ」は、途中少し居眠りしてしまったこともあるように、多少期待外れだった。ポイントになるのは、一見凄腕のチンピラ風である佐藤允が、実は…という設定なのだろう。
ある人物を捜すため佐藤允と組む殺し屋天本英世が演じる麻薬中毒者が迫真。またあわれラストで天本英世に殺されてしまう山茶花究悲し。
これに対して岡本喜八監督の「暗黒街の弾痕」は素敵に面白いアクション映画だった。低燃費の自動車をテストしているテストドライバー三島耕が、その設計図を狙う一味に殺害された。そこで捕鯨の教官をしている彼の弟加山雄三が犯人探しに乗り出すという筋。
加山の同級生で、彼に協力するのがトップ屋佐藤允。こちらのキャラクターは、「奴は殺人者」にくらべすこぶる格好良くて魅力的にして爽快。佐藤允は屈折した役柄より、このような開放的な役柄に向いている。以上の二人に三橋達也の刑事が加わって、善玉側。悪玉側は中丸忠雄と草川直也。
島崎雪子がバーの歌手役で登場、異様な男三人組をバックコーラスに従え、「誰も知らない」という歌を唄うシーンは秀逸。島崎雪子と言えば、成瀬巳喜男監督「めし」で、上原謙と原節子の夫婦に波風を起こす上原の姪役を思い出す。あのお転婆娘が、年齢を重ねてお色気たっぷりの歌い手とは。岡本喜八監督は「めし」で助監督をつとめていたらしい。
この作品では、ラストの大立ち回りのアイディアが見事だ。ミッキー・カーチス演じるちょっと間抜けな青年が拡声器を使って大声でわめいたり、建築現場でリベットを打ち付けるための道具を武器に使ったり。
額をかすめ撃たれ、出血で眼が見えない佐藤允と、両手を撃たれ両手が使えない加山雄三が二人一組でそのリベット銃を使いこなす(加山は捕鯨教官ばりに佐藤に撃つ場所とタイミングを指示する)なんて、洒落ている。しかも三橋達也の見せ場もちゃんと用意されており、これまた格好いい。
テストカーの設計者である中谷一郎から設計図を脅し取った中丸忠雄だが、実は偽物で(本物の設計図のありかが明かされたときは爆笑だった)、包みを開いてみると「謹賀新年」の文字が書かれた紙切れが。この映画は1961年のお正月映画だったのである。『kihachi フォービートのアルチザン』*1(東宝出版事業室)によれば、1月3日公開とある。
そんなこんなで場内も大爆笑の連続、愉快愉快。一人で観てはこんな愉しさを感じることはないだろう。泣く映画も、笑う映画も、やはり映画館で大勢で観てこそなのだなあと思う。