岡田茉莉子の入浴場面に惹かれて

「芸者小夏」(1954年、東宝
監督杉江敏男/原作舟橋聖一/脚本梅田晴夫岡田茉莉子池部良森繁久彌/御橋公/杉村春子沢村貞子中北千枝子北川町

この映画は、主演岡田茉莉子さんの入浴場面が入った宣伝ポスターが盗まれるという騒動になった伝説の作品である。やはりわたしもこの場面のスチール写真を見て以来、岡田茉莉子さんの美しさに見惚れ、観たいと願っていたのだった。ようやく今回その念願が叶った。
あらかじめ原作を読んでから映画を観ると、原作にあるエロティシズムはうまく再現されず(もっともこれは仕方のないことである)、また夏子がほのかに恋を寄せる恩師久保先生との恋愛関係が強調されてしまって、原作の良さである「二号さん」生活の細部が生かされない。これもまた、久保先生役が東宝きっての二枚目池部良さんである以上、そう改変されるのは致し方ない。したがってストーリーとしての面白さは原作に軍配を上げざるをえない。
ただ、岡田さんは匂い立つような美しさだし、配役も見事にはまっている。身請けする社長が御橋公なのはややインパクトに欠けるものの、二人の世話を焼く部下である経理課長河島の森繁さんはまさに適役。また夏子の養母となる置屋のおかみに杉村春子、馴染みの料理屋のおかみに沢村貞子という二大女優を配して盤石、この安定感は揺るぎない。
先輩だが売れ残り気味で不見転の年増芸者といった役どころに中北千枝子というのも見事。思わず成瀬巳喜男監督の『流れる』を思い出してしまった。
映画は旦那の御橋公の死で終わり、続篇へと続くことが予告されているが、御橋の葬儀の場で、焼香に参列した岡田茉莉子を好色な目で見つめる葬儀委員長佐久間に志村喬というのも絶妙。小説では、旦那没後献身的に夏子の世話をするものの、甲斐性がなく自分が囲うという立場になれない河島をさしおいて、夏子は結局佐久間の二号さんに収まってしまうのだが、枯淡というべき御橋公(原作でもそんな印象)と対象的に強引で脂ぎった老人実業家の雰囲気を、志村さんがあの葬儀の一場面だけで表現してしまうのだからすごいものである。